2020年7月17日にJR川崎駅東口近くの商業施設「ルフロン」内に水族館がオープンしました。既存の商業施設内に水族館が出来るのは日本初だそうです。
8月11日放送のTV東京「ガイアの夜明け」で特集されていましたので、この番組での情報を参考に、「カワスイ」が成功するか私なりに考察してみようと思います。
また私自身、7月下旬の連休でカワスイに家族と行ってきたので、その感想も交えてまとめます。
Contents
商業施設内水族館「カワスイ」の成功とは?
商業施設内の水族館としての特徴
「カワスイ」の大きな特徴は、既存の商業施設内にできる日本初の水族館ということです。
既存の商業施設内にあることで、水族館で最も重要と言える水槽の重さの上限が決まってくるという制約があるようです。水槽に制限があるということは、魚も十分な数が展示できない可能性があります。
日本で最も来場者数の多い沖縄の「美ら海水族館」は約7,500トンの水量があるのに対し、「カワスイ」は約250トンの水量が限界とのことでした。
逆にメリットとしては、この商業施設「ルフロン」は川崎駅東口を出てすぐのところにありアクセスが良いことで、ショッピング等も含めた多くの来場者が見込めることです。
また制限されている水量、また淡水ということもあり、水にかかるコストが安くなるということもあります。
「カワスイ」の成功とは、川崎への消費者流入。
もちろん水族館単体としては、多くの来場客が来て経営的にもうまくいくことが成功と言えます。ただ駅近の商業施設の中の水族館ということで、周囲への波及効果の狙いもありそうです。
番組内では、川崎市長が出演しており「東京と横浜の間にあって、街の作り方によっては両方から人を引き寄せられる」と期待を述べていました。
またこの商業施設ルフロンを手掛ける企業の関係者は「これまでは川崎の商業施設は競合していたが、カワスイで消費者を呼び込むことによって、共存を図ることができる」と言っていました。
両者に共通して言えるのは、川崎に来る消費者の総数を増やすことで、「カワスイ」だけではなくて、川崎全体の活性化につなげるという意図があるようです。
成功のための要素
「カワスイ」が成功するために、①水族館自体が持つコンテンツの魅力、②価格設定とそれで経営を維持する工夫、③選択肢となる競合との比較、に分けて考察していきたいと思います。
水族館のコンテンツ
アマゾン川を中心にした淡水魚の水族館
水族館のメインコンテンツである魚について、「カワスイ」は水族館の中では珍しい、淡水魚を展示している水族館になっています。
通常の水族館では、イルカ・ペンギン・サメなど大型の海洋生物が目玉になっていることが多いですが、それに比べて淡水魚というのは大きさも小さく、どうしても地味な印象になってしまいます。
しかし番組でも取り上げていましたが、「カワスイ」ではスタッフをアマゾン川に派遣し、現地の雰囲気を反映させるため、魚以外の鳥やカピバラなども展示したり、天候もスコールや霧を再現するなどの工夫をしているようです。
またそれに加えて世界各国の水辺や、地元の多摩川の生物を配置するなど独自の特色を出しています。
また昼夜で照明を変えることで違った風景が見れるなど、来るたびに楽しめる内容になっています。
豊富な飲食店
水族館には、レストラン「AOW」、カフェ「こもれびカフェ」「ソラネコカフェ」「カフェクラム」が併設されており、飲食を楽しむことができます。これも他の水族館と比べると異例なほどに多くスペースを割いているとのことです。
川崎駅前の商業施設内にある水族館ということで、飲食の選択肢は周辺の商業施設にもあるようにも思いますが、水族館内に飲食店があることで、休憩をとりながら回ることができるため、水族館全体の満足度を高めることができるでしょう。
ただ、これらの飲食店に関しては、冒頭で書いた制約で水槽をあまり多く置けないことや、後述する経営上の目的の方が多いようにも感じます。
最新の技術を使った水族館
最新の水族館らしく様々な技術を用いた展示も「カワスイ」の特徴です。
番組の中でもプロジェクションマッピングと言われていましたが、パノラマスクリーンに映し出される大型のサメやイルカなどが見れるフロアがあります。大型の水槽が置けない点をカバーしている面もあるとは思いますが、かなりの迫力を感じる内容になっています。
また各水槽には、展示されている魚の説明は書いておらず、QRコードが示されているだけです。来場者はこれをスマホで読み込むことで魚の説明が見れる仕組みになっています。
価格設定と経営
入場チケットは昼夜に分かれていて、価格はそれぞれ大人2,000円、昼夜共通チケットは3,000円となっています。同じく都心の水族館である品川アクアパーク・すみだ水族館は2,300円、サンシャイン水族館は2,400円ですので、他と比べて高くはないですが、一方で価格が安いから行くというほど優位な状況ではありません。
またカワスイには年間パスポートも用意されています。これは昼夜に分かれたそれぞれが大人4,000円、昼夜両方行ける共通パスが6,000円と、2回行けば元がとれるような価格設定です。この価格設定は上記の他の水族館もほぼ同様に2回で元がとれるようになっています。
年間パスポートについて
水族館の年間パスポートの価格設定(2回で元が取れる)はかなり安いように感じたので、これについて少し考察してみます。
例えば、東京ディズニーリゾートは1デーパスポートが8,200円に対し、年間パスポートは99,000円と約12回分の価格設定になっており、水族館の価格設定とは明らかに異なります(執筆時2020年8月13日時点)。
そもそもテーマパークが、年間パスポートを販売する狙いは以下の通りと考えられます。
①入場料売上の増加:
通常であれば年1回しか来ない人が、年間パスポートにお得感を感じて購入すれば売上を増やせる
②飲食・グッズ売上の増大:
来場回数を増やすことで、入場料が増えなくても飲食やグッズ購入の機会を増やし売上を上げる
逆にテーマパーク側が注意すべきポイントは以下の通りと考えられます。
①入場料売上の減少:
年間パスポートが無くても高頻度で来場する人が多いと、本来得られるべき入場料収入が得られない
②追加コスト・不具合の発生:
年間パスポート保有者が来場することで、運営の追加コストや混雑による不具合が発生する
以上のように整理するとわかりやすいと思います。まず狙いと注意点の①を考えると、ディズニーは多くの熱狂的なファンを抱えており、年間パスポートがなくても年に複数回訪れるであろう人が多いのに対し、水族館はそこまで熱狂的なファンは多くないと思われます。
ある調査によると動物園・水族館に年1回以上行く人は全体の2割以下とのことなので、そもそも年間で2回分以上の入場料売上が上がる年間パスポートは、水族館にとっては得な面が大きいと思われます。
また注意点②について、ディズニーは、アトラクションに乗る形式で各アトラクションの稼働回数は決まっているため、必要以上に混雑が起こると、待ち時間の発生や乗りたいアトラクションに乗れない人も出てきて、来場者の満足度が下がる可能性が高くなります。(混雑を避けるためディズニーは年間パスポートに使用不可日を設けています。)
一方で水族館は、館内を歩いて回る形式のため、直接的な不具合は発生しません。もちろん水槽が見づらくなるなどの問題は考えられますが、そもそもの混雑具合などを考えても、年間パスポート販売による混雑はあまり問題にならないと考えられます。
「カワスイ」については、上記の入場料収入に加え、上述の通り飲食スペースを多くとっているため、狙い②にあるように来場者数を増やして飲食やグッズ売上を多く上げていきたいという戦略があると考えられます。
競合との比較
最後に競合と比較して「カワスイ」を選ぶかどうかという観点で考えます。
単純に考えると都心にある他の水族館が競合と考えられ、以下のような水族館が挙げられます。
入場料については先ほども書いた通りほとんど変わらないか、やや「カワスイ」が安いのですが、基本的にはどの水族館でも海洋生物がメインになっており、アクアパーク品川ではイルカショー、他にもどの水族館にもペンギンがいることを考えると、やや「カワスイ」の淡水のラインナップは地味なように感じてしまいます。
しかし、そもそも先ほど書いた水族館・動物園に行く頻度を見ると、年に1回以上行くのは全体の2割に過ぎません。これは他の水族館と争ってその少数の来場者を奪い合うという発想よりは、他の水族館とは違う新しい魅力を訴求して、普段は水族館に行かない層を狙う方が賢明であると考えられ、その意味では「カワスイ」は他と違う特徴があり、戦略としては適切なように思います。
水族館だけに限らず、数ある週末の過ごし方の1つとして、「カワスイ」の魅力をアピールし、「カワスイ」を見に行くついでに川崎駅の他の施設も利用する、という好循環が生まれれば、当初に書いた、川崎に来る消費者の増加という目的にも合致した流れが作れると思われます。
実際に行った感想
冒頭にも書きましたが、私自身、「カワスイ」のオープンから1週間ほど経った7月の連休中に「カワスイ」を訪れてみましたので、そこでの感想を書いてみたいと思います。
私は午前10時過ぎに行ったのですが、コロナ禍でもあったため入場制限がされており、「カワスイ」のある商業施設ルフロンの1階で時間帯の書かれた整理券を受け取って、その時間帯になったら再度訪れるという形でした。
水族館に入った感想ですが、第一印象はやはり「ラインナップが地味・・・」ということでした。最初は多摩川から始まり、その後世界各地の水辺を回って、最後にアマゾン川周辺ということになりますが、やはり淡水だけだと迫力や単純な面白さという意味では、イルカやペンギンには劣るかなと。特に私は家族に誘われ、何の予備知識もないままに行ったので、通常の水族館を期待すると拍子抜けという気がしてしまいました。
今となれば、番組等を見てコンセプトを理解していますし、次に行ったときはもっと楽しめるとは思います。そもそも番組でもやっていたようにコロナの影響で、当初予定していた魚などが輸入できないなど完璧な形ではなかったと思うので、ラインナップ自体も今後充実してくるのだと思います。
また同じくコロナの影響もあり、私が行ったときはレストランやカフェがほとんどやっておらず、入場口近くのカフェクラムのみの営業だったため、これも次回に行ったら楽しみにしたい点です。
他に最新の水族館らしい技術について、水槽に魚の説明がなくQRコードを用いてスマホで見るという形ですが、最初は面白いと思ったものの、思いのほか使いづらいように感じました。
そもそもQRコードをスマホでとるのですが、QRコード前に他の人が立っているとスマホをかざせず待つ必要があります。またスマホでとったとしてもアクセスするまでのタイムラグが意外と気になり、子供に「これ何?」と聞かれてから、QRコード待ち→スマホでとる→アクセスするという工程に時間がかかり、その時には子供の興味が他に移る・・・ということも何度かありました。これは5Gや他の技術が発展すれば解決するとは思いますが、現段階ではアナログの説明があった方が良いかなというのが率直な感想です。
またパノラマスクリーンについては、単純に迫力がすごいのは間違いないと思うのですが、心のどこかで「水族館に来ているのに何で映像を見てるんだろう」と思ったのも否定はできません。まあ子供は喜んでいたので、企画としてはアリなんだとは思います。
全体としてみれば、私は今回通常の水族館を想像しながら行ってしまったので、少し拍子抜けや戸惑う部分もあったのですが、色々な新しい試みを行っていることは間違いなく面白い点だと思います。来場前や館内で「カワスイ」のコンセプトやストーリーを理解して楽しめる仕組みがあれば、より楽しめるのかなという気はします。
現在はコンセプトもある程度理解していますし、もう少し時間を置いて魚なども揃い、レストランもオープンした状態で行ってみたいと思います。できれば今度は夜に行ってライトアップなども楽しみたいですね。
まとめ
川崎駅近くにできた水族館「カワスイ」について書いてきました。既存の商業施設内に日本で初めてできた水族館ということもあり、様々に新しい試みを行っており、面白いスポットだと思いますし、成功する要素は持っていると思います。
現在はコロナ禍という特殊な状況で難しい面もあるとは思いますが、根本的にはこれらの新しい試みを、コンセプトやストーリーとして、どうアピールしていくかがポイントのような気がします。そうしたアピールが出来れば、「カワスイ」を訪れようと思う人も増えるでしょうし、来場者からリピーターになる人も増えると思います。
私もまた次回に訪れた時にどう変わっているか楽しみにしていますし、そうした魅力がみなさんにも伝わって「カワスイ」が成功し、川崎全体の活性化にもつながってほしいですね。
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